Sicarius thomisoides(シカリウス トミソイデス)は過去にSicarius terrosusの名前で世界で最も強力な毒をもつ蜘蛛として
毒蜘蛛ランキングの上位にチャートする蜘蛛でした。
その風変わりな生態も相まって色々な情報サイトで取り扱われて有名になりました。
また、Sicarius thomisoidesはしばしばタランチュラや他の蜘蛛の毒性について触れられるときに
比較対象として話題になります。タランチュラよりSicarius terrosusという小型の蜘蛛の方が毒が強い等と紹介されて。*1
ある本ではLoxscoleses reclusaを擁護するような形でSicariusが危険とされています。*2
マイノリティな趣味の世界で、Sicariusがいかに悪であるかと扱われています。

長い間ずっと、Sicariusのクモは消化液にLoxosceles属と同じ
スフィンゴミエリナーゼDという強力な毒が消化液に含まれているからという理由で咬まれたら壊死するような症状が出ると考えられていました。
これこそが今までずっとSicarius属が危険とされてきた理由の一つです。 しかし正当な研究の結果、Sicarius thomisoidesを含むチリのSicarius属の蜘蛛3種の毒液はスフィンゴエミリナーゼDが含まれていない、もしくは最小ということが
明らかになりました。スフィンゴエミリナーゼDを含むのはアフリカのSicariusとブラジルのSicarius ornatusでした。
なにより大事なのはSicarius thomisoidesに咬まれたという正式なレポートはたったの一つも存在しないということです。
あるのはブラジルのSicarius ornatusです。なのにどうして今までSicarius thomisoidesが致死性の毒を持つと言われてきたのでしょうか。

そして話は更に今へと進み、アフリカに生息するSicarius属だと思われていたクモはSicarius属ではなく
Hexophthalma属ということもわかりました。
危険と言われるような原因を作ったアフリカのSicarius属の蜘蛛は別の属だったのです。
アフリカのHexophthalma属のクモとブラジルのSicarius ornatusは強力な毒を持ちます。

現在、Sicarius terrosusSicarius sp.を飼育している方は今一度出自を確かめてみることをおすすめいたします。
アフリカ便からSicarius terossus又はSicarius spの名で入ってきたものは
Sicarius属ではなくHexothelema属のまったく別の蜘蛛の可能性が極めて高いです。そもそもS.thomisoidesはアフリカに生息していません。
外見はSicariusもHexothelemaもどれも似た外見をしており、パッと見ただけではまずわかりません。

長くなりましたが簡潔に要点だけをまとめます
Sicarius terrosusSicarius thomisoidesのシノニム
S.thomisoidesに咬まれたという正式なレポートは存在しない
・チリのS.thomisoidesを含むSicarius属3種には毒スフィンゴエミリナーゼDはない、あるいはほとんど検出されなかった
・最近シカリウスとは別の属と判明したHexothelema。これは強い毒成分スフィンゴエミリナーゼDを持つため
ロクソスセレスと咬まれた時と同様の症状が出ると考えられる。
・Wikipediaは機能していない

*1 REPFAN vol.1
*2 邪悪な虫―ナポレオンの部隊壊滅!虫たちの悪魔的犯行

リファレンス:
Venom of the Brazilian Spider Sicarius ornatus (Araneae, Sicariidae)
Contains Active Sphingomyelinase D: Potential for Toxicity after Envenomation
Priscila Hess Lopes, Rogerio Bertani, Rute M. Goncalves-de-Andrade, Roberto H. Nagahama, Carmen W. van den Berg, Denise V. Tambourgi
https://doi.org/10.1371/journal.pntd.0002394


World Spider Catalog (2018). World Spider Catalog. Natural History Museum Bern,
online at http://wsc.nmbe.ch, version 19.0, accessed on 27/4/2018

Binford GJ, Bodner MR, Cordes MH, Baldwin KL, Rynerson MR, et al. (2009) Molecular evolution, functional variation,
and proposed nomenclature of the gene family that includes sphingomyelinase D in Sicariid spider venoms. Mol Biol Evol 26: 547?566.

PREDATORY AND SEXUAL BEHAVIOR OF THE SPIDER SICARIUS (ARANEAE: SICARIIDAE)
BY HRER W. LEVI

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